| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-05  (Oral presentation)

エゾエンゴサク(ケシ科)における多様な葉形態の種内変異に関する研究
The study of intraspecific leaf shape variation in Corydalis ambigua

*吉田理見, 成田陸人, 山岸洋貴(弘前大学)
*Satomi YOSHIDA, Rikuto NARITA, Hiroki YAMAGISHI(Hirosaki Univ.)

 ケシ科キケマン属植物の一部の分類群は、種内に驚くほど多様な葉形態の変異を有する。そのうち日本に自生するエゾエンゴサク、ミチノクエンゴサク、ヤマエンゴサクは、集団内で観察される変異の出現頻度が集団ごとに大きく異なることが先行研究により示されているが、その要因については不明である。発表者らは、これらを明らかにすることで、植物種を特徴づける葉形質がどのように決定されるのかについて、そのプロセスの一つを示すことができると考えた。
 今回はエゾエンゴサクを対象に国内の分布域をほぼ網羅する形で野外調査を行い、集団ごとに葉形態の変異パターンの出現割合やその形態的特徴、環境要因を調べた。また、集団間の系統関係を明らかにするために、MIG-seq法を用いた遺伝子解析を行った。
 野外調査の結果、調査集団全体で小葉の幅が広く切れ込み数の少ない個体が最も多くの割合を占めていることが分かった。このような葉形態をもつ個体は、葉面積が広く、花の数が多かった。遺伝子解析の結果、地理的なまとまりはみられたものの集団間の遺伝的分化の程度は低く、それぞれの集団間に明瞭な遺伝的構造の差は存在しないことが示唆された。さらに、葉形態と環境要因との相関関係を調べた結果、小葉の枚数と標高、小葉の切れ込み数と年平均降水量・年平均気温・土壌水分量、小葉の幅と年平均降水量・年平均気温との間にそれぞれ正の相関関係が認められたほか、小葉の幅と年積雪量・標高との間にそれぞれ負の相関関係が認められた。
 以上の事から、エゾエンゴサク集団が示す葉形態の多様性は、種内系統よりも各集団の環境要因を反映している可能性が示された。葉形態の多様性が維持されているのは、エゾエンゴサクが種として成立した年代が新しく、祖先集団が持っていた葉形態の変異が環境要因に応じて自然選択を受けている過程にあるためではないかと推測している。


日本生態学会