| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-07  (Oral presentation)

空間先取り説とは何か?タケの生活史を理解する
What is the pre-empted space hypothesis?

*山田俊弘(広島大学)
*Toshihiro YAMADA(Hiroshima University)

群落に出現する種は競争排除則の示す通り、その群落内で最も競争力に優れた種なのだろうか? 植物生態学者はこれを疑っている。複数ある理由の一つは、「群落内では植物は、資源を巡る競争などしていない」というものだ。たとえば、林冠ギャップを巡る競争を考える。ギャップ内で成長し、そこで生き延びるのは、競争排除則によれば、ギャップ環境での成長・生残に最も優れた種であることが期待される。しかし、そもそも、そのギャップに、群落内のすべての植物種の種が散布されるだろうか?もしそうならば、”最も優れた種“が選び出されることになるが、そうでなければ”ギャップに散布された種のうち、最も優れた種“が選び出されることとなる。この当たり前の考えを熱帯性のタケに当てはめてみよう。
私たちは、ミャンマーの熱帯季節林で、2種のタケ(Cephalostachyum pergracile Munro とBambusa polymorpha Munro)の分布を調べた。これらタケは数十年に一度しか開花せず、開花のタイミングは、種間で異なる。仮に、両種が共通の更新適地(例えば尾根地形にある林冠ギャップ)をもつとしよう。すると、更新適地を巡る競争が2種の間でおきるはずだが、競争が起きるためには、両種の種子が更新適地に同時に散布される必要がある。一方、この条件(同時に2種の種子が更新適地に散布されること)は満たされることはまずない。ある種の更新は、開花時に偶然残された更新適地に限られることだろう。更新に成功し、適地で大きく育ってしまえば、その場所には、その何年も後に開花するだろう、もう一方のタケ種は侵入できるはずもない。私たちは「あるタケ種の更新は、タケ株がまだ発達していない場所に限られ、タケ株がすでに優占している場所では、それが地形的には適地であっても更新できない」という考えを「タケの空間先取り説」と名付けた。タケの空間先取り説は、タケ株の空間分布を理解するうえで、重要な知見になりえるだろう。


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