| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-01  (Oral presentation)

Iso-loggingによるカツオ(Katsuwonus pelamis)の回遊履歴復元
Using iso-logging to trace the migratory patterns of skipjack tuna (Katsuwonus pelamis)

*松林順(松林 順)
*Jun MATSUBAYASHI(Jun Matsubayashi)

海洋において動物の長距離移動を長期間追跡することは、現代の技術をもってしても困難な課題である。通常、中型以上の海洋生物では、電子機器を装着した個体を追跡するバイオロギング(Bio-logging)によって長距離移動の研究が実施されている。しかし、バイオロギングでは、①機器の設置・回収にかかるコストが大きい、②追跡期間が最長で1年程度に限られる、③小型の生物には装着できないといった問題点がある。近年、これらの問題を克服できる新たな生物の移動履歴調査手法として、体組織中における逐次成長する器官の時系列同位体分析と同位体比の空間分布地図を用いたアイソロギング(Iso-logging)が注目されている。本研究では、西部太平洋の熱帯・亜熱帯域から日本近海へと季節的に回遊してくるカツオ(Katsuwonus pelamis)を対象として、アイソロギングによる回遊履歴復元手法を確立した。最初に、西部太平洋における同位体地図を作成するため、対象地域におけるカツオの生息域内の広範囲から、稚魚を中心に様々な体サイズのカツオの筋肉試料を収集し、炭素・窒素安定同位体比を測定した。次に、カツオの同位体比のばらつきをカツオの体サイズや様々な生物地球化学的データ(水温・塩分・栄養塩濃度など)を含む説明変数と空間ランダム効果で予測する地理統計モデルを構築した。クロスバリデーションに基づくモデル選択により炭素と窒素安定同位体比の空間分布の予測に最適なモデルを決定し、それに基づいて西部太平洋における同位体比の空間分布地図を作成した。続いて、様々な採捕されたカツオ成魚の水晶体を用いて、稚魚期から捕獲時点までの炭素・窒素安定同位体比の時系列変化を復元した。これらのデータから体成長による同位体比の上昇効果等を補正し、同位体地図と比較することでカツオの回遊履歴を復元した。日本周辺で採捕されたいくつかの個体は、熱帯域から日本近海まで北上するパターンが再現され、本手法の妥当性が示された。


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