| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-05  (Oral presentation)

時系列衛星画像を用いた台風による森林風倒後の植生回復過程の評価
Assessing the recovery of vegetation after typhoon-induces forest windfall using time-series satellite images

*阿部聖哉(電力中央研究所)
*Seiya ABE(CRIEPI)

広域スケールで森林などの生態系を継続的に監視するためには、衛星からの画像データが有効である。衛星から取得可能な時系列データは、従来はNOAAやMODISなどの粗い解像度の画像データが主体であったが、近年では複数の人工衛星を連携させ、一体的に運用するコンステレーション等により、目視判読可能な解像度で時系列的な画像データを取得することが可能になった。また、米国のLandsatや欧州のSentinelのように、無償で迅速にデータを取得できる仕組みも整備されてきている。

台風や地震、津波などの災害発生時に、衛星画像により広域的に森林の攪乱を把握する試みは、古くから行われてきた。しかし、それらの多くは災害前後の画像の比較により、森林の攪乱発生個所を把握することにとどまっており、その後の変化を追跡した事例は少ない。攪乱後の植生の回復状況は、山間部での土砂の発生やピーク流量の増減を通じて生態系サービスにも大きく影響することから、衛星画像を用いて広域的に監視することは重要な課題である。

本研究では、2019年9月に発生した房総台風を取り上げ、強風による森林の風倒箇所の植生が4年間でどのように変化したかについて、解像度10mの光学衛星Sentinel-2の時系列データをもとに推定した。空中写真から台風後の森林域の地表面の状態を、残存森林、風倒域(強風により樹木が倒伏した区域)、地滑り域(風倒後、地表の土砂が流出して裸地化した区域)の3つに区分し、それぞれの正規化植生指数(NDVI)の時系列変化を分析した。その結果、地滑り域は大きく低下した後にわずかな上昇が認められる程度であったのに対し、風倒域は台風後の低下の後に回復し、台風前とは異なる季節変化パターンを示すことが分かった。森林域では、台風後の地表面の状態により、その後の植生回復過程が大きく異なることが示唆された。


日本生態学会