| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-07 (Oral presentation)
ベイツ型擬態は捕食者にとって無害な種(mimic)が有害な種(model)に姿や形を似せることによって、捕食者からの攻撃を減らす戦略である。従来の理論では、mimicが擬態の恩恵を受けるためには、modelと同所的に生息する必要があると予測されてきた。しかし、野外ではmimicがmodelの生息域をはるかに超えて生息する例が多く知られている。このような現象は“mimics without models”と呼ばれ、現在まで生態的進化的な維持機構が未解明の問題である。“mimics without models”を説明する仮説は生態・進化の両面からいくつか提案されてきた。生態に注目した研究は、2種が共存する場合と、mimicのみが生息する場合の2つの分布の違いを環境収容力などの生態学的パラメータから説明を試みた。また、進化に注目した研究では、modelと異所的に生息するmimicが擬態形質を維持する要因として、mimicの移動分散による遺伝子流動や捕食者の移動分散が提案されている。しかしこれらの仮説は生態と進化を切り離し、全く別々に議論されてきた。近年、進化は従来考えられてきたよりもはるかに早く、生態学的プロセスと相互作用することが指摘されており、“mimics without models”の維持機構を解明するにあたっても生態と進化を統合して考えることで新しい視点が得られる可能性がある。そこで本研究では、modelとmimicの個体群動態とmimicの表現型進化を同時に記述する生態−進化動態モデルを構築し2つの局所個体群がゆるく結合しているメタ個体群における進化生態的帰結を解析した。その結果、“mimics without models”が維持されるためには、特定の生態学的パラメータに加えて、mimicの移動分散が必要不可欠であることが示唆された。また、捕食者の移動分散はこれまで“mimics without models”を維持する要因の1つとして考えられてきたが、高い移動分散は逆に“mimics without models”を解消する要因として働くことが示唆された。