| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-08 (Oral presentation)
近年の人為的影響による急速な地球規模の気候変動は世界のサンゴ礁に危機を及ぼしており、琉球列島の広い範囲でサンゴ群集の壊滅的な状況が続いている。サンゴの個体群の回復機構を考える上で、遺伝マーカーを用いた集団遺伝解析により個体群がどのように維持されているかを把握することが重要である。本研究では、MIG-seq法により琉球列島で生息数が激減しているトゲサンゴ(Seriatopora hystrix)のゲノムワイド一塩基多型(SNPs)に着目した集団遺伝解析を行った。琉球列島の10地点163群体のトゲサンゴについて、計192ヶ所のSNPsをもとに遺伝的多様性の指標であるヘテロ接合度、遺伝的分化係数FSTを求め、さらにPCA(主成分分析)とベイズ法クラスタリングを行った。琉球列島のトゲサンゴは地理的距離や水深に従わない3つの遺伝的クラスターに分けられた。この結果は以前マイクロサテライトで解析された結果と一致しており、トゲサンゴには隠蔽種が含まれると考えられ、分類の再検討が必要であることを改めて示した。しかし、以前の解析で曖昧であった遺伝的背景を有する群体に関しては2種の雑種であることが示唆された。さらに、遺伝的多様度が大きい地点が検出されたが、この地点は雑種が存在しており、雑種形成により遺伝的多様度が大きくなったと思われる。一方で、隠蔽種間では異なる度合いの遺伝的分化を示したため、幼生分散期間などの生態学的特性に違いがあるかもしれない。海流シミュレーションモデルでは黒潮や黒潮反流により地域間の幼生分散が起こりうることが示されたが、トゲサンゴの場合は隠蔽種内でも地点間の遺伝的分化が大きく、今後の撹乱の規模によっては地域個体群が回復できずに絶滅する可能性も考えられる。