| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-09 (Oral presentation)
地下水によって供給される“湧水”の周辺に成立する湿地生態系(湧水依存生態系)には、固有性の高い生物相が形成される。湧水湿地はパッチ状に形成されるため、湧水周辺を選好する種はメタ個体群によって存続していると考えられる。一方で、同じ湧水という共通のハビタットを利用する種でも、種の移動能力によって、メタ個体群の範囲や湧水湿地間の個体の移動を規定している要因が異なる可能性がある。保全計画はしばしば流域を一単位として行われるものの、流域を超えて移動分散している種では、複数の流域にまたがる保全の空間計画が必要となる。本研究では湧水湿地が多数成立する谷津環境を対象に、移動能力の異なる3種(ホトケドジョウ:遊泳性、サワガニ:歩行性、オニヤンマ:飛翔性)の遺伝構造を明らかにした。
千葉県北部地域の谷津を対象に、1地点当たり10サンプルを採取した。MIG-seq法(Suyama and Matsuki 2015)によって一塩基多型(SNP)情報を取得し、各種の遺伝構造を明らかにした。その結果、ホトケドジョウでは3つの流域から4つの遺伝的グループが検出され、そのパターンは水系単位で固有のグループを形成していた。一方サワガニでは、4つの流域から2つの遺伝的グループが検出され、水系をまたいで遺伝的グループが形成されていた。オニヤンマでは4つの流域間でも遺伝的グループが検出されず、広範囲で遺伝的に類似していた。以上のように、同じ湧水周辺を選好する種であっても、移動能力が異なる種の間で遺伝構造に違いがあった。従って、保全の空間計画は、移動能力を考慮する必要があることが示唆された。