| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-01  (Oral presentation)

キタナキウサギの分布変化:再訪調査の結果と種分布モデルによる予測の比較【B】
Range shift of northern pikas: comparison between habitat resurvey results and species distribution model predictions【B】

*Tomoki SAKIYAMA, Jorge GARCíA MOLINOS(Hokkaido Univ.)

近年の気候変動により生物の分布は高緯度や高標高へ移動しており、経時的な分布変化を予測するうえで種分布モデルは強力なツールになっている。しかし、分布変化の予測結果を実際の変化と比較した先行研究によると、種分布モデルは変化を過大評価してしまうことが指摘されている。この要因として、従来の解析は空間解像度が低く、地形の異質性や微気候の存在を考慮できていないことが挙げられている。従って、微地形や微気候の効果を解析に組み込むことで、分布変化の観察と予測における不一致を緩和できる可能性がある。本研究では、岩塊地に存在する微気候を利用するキタナキウサギを対象に、分布変化の現状を野外で調査し、また種分布モデルに微環境を組み込んだうえで変化を予測することで、観察と予測の不一致が緩和されるかを検証した。分布変化の現状は、過去(1961-2010)に北海道内で生息が確認された57地点を再訪し、現在(2021-2023)の生息状況を調べることで評価した。種分布モデルでは、従来の低解像度の外気温データ(約1km)を用いた解析に加えて、高解像度の外気温(約0.1km)、および同解像度で岩塊地の微気候を組み込んだ場合の3通りの解析設定を設け、過去年の分布データで訓練したモデルにより、現在の生息適地を予測した。再訪調査の結果、低標高側の多くの地点で局所絶滅が生じていることが確認された。同地域は、種分布モデルの全ての解析設定において生息不適になることが予測されたため、モデル予測は概ね正確であることが確認された。解析設定間を比較すると、高解像度の外気温を用いた予測が最も正確であった一方で、微気候の組み込みは予測性能の向上に繋がらなかった。今後の研究では、従来の解析に加えて高解像度解析も実施することで、分布の変化をより正確に予測することが可能になると考えられる。また、微気候を組み込んだ解析における性能の向上も必要である。


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