| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-02  (Oral presentation)

傷病鳥獣救護データを用いたタヌキの個体群動態の推定【B】
Estimatiing the dynamics of a raccoon dog population using animal rescue data【B】

*松山亮太(酪農学園大学), 木戸伸英(金沢動物園), 大森亮介(北海道大学)
*Ryota MATSUYAMA(Rakuno Gakuen University), Nobuhide KIDO(Kanazawa zoo), Ryosuke OMORI(Hokkaido University)

傷病鳥獣救護は希少な野生動物の保護に貢献しうるとともに、野生動物における疾病の集団発生を捕捉しうる。継続的かつ一定の努力量で実施されている救護活動では、救護される動物の個体数や疾病罹患などを含む状態は、その背景にある自然下の個体群の状態を反映しているはずである。しかし、それら自然下の個体群の状態を定量的に明らかにするような取り組みは見当たらない。そこで本研究では傷病鳥獣救護活動で記録されたデータを利用して、救護対象動物の個体群動態を推定する統計手法について検討した。
野生動物の個体群動態を潜在状態、救護イベントの発生を観測状態とする状態空間モデルを構築した。本モデルを利用した分析事例として、1992年から2010年に神奈川県横浜市の3か所の救護施設に収容されたホンドタヌキ(Nyctereutes viverrinus:以下、タヌキ)の救護データを利用し、疥癬の流行がタヌキの個体群サイズに与えた影響の推定を試みた。タヌキの救護確率、疥癬による致死率、および個体群の内的自然増加率の時間変動に仮定を置くことで、タヌキの個体群サイズの相対値(以下、相対個体群サイズ)を推定した。
タヌキの救護確率と疥癬による致死率の時間的変化を無視した場合、疥癬の流行期間内で相対個体群サイズが最大となった1995年から最小となった2002年にかけて、個体群サイズが88.7%(95%信用区間: 82.9-93.1%)減少したという推定結果を得た。本研究で推定されたタヌキの個体群サイズの減少率は、スウェーデンにおけるアカギツネでの疥癬の流行時の減少率と近い値であった。野生動物が救護される確率は救護活動の量と質に、疾病による致死率は病原体の毒性と宿主の感受性に、動物個体群の自然増加率は環境収容力などに影響を受ける。それらについて適切な仮定を置くことができれば、本推定手法で救護対象動物の個体群動態を推定できると考えられた。


日本生態学会