| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-03 (Oral presentation)
狩猟や有害駆除(学術捕獲、個体数調整も含む)による個体数削減は、有蹄類の過増加を防ぐために世界各地で行われている。しかし、捕獲対策の強化が個体群内の局所動態にどのような影響を与えたのか定量的知見は限られている。本研究では、北海道の釧路総合振興局(約6,000km2)に生息するニホンジカ(Cervus nippon)個体群を対象に、1994年から2020年(27年間)における259の5倍地域メッシュユニット(以下メッシュユニット;23km2)毎の個体数推定を行い、全域の個体数およびメッシュユニット面積で除した局所密度の年次推移を明らかにした。期間内の捕獲対策の強化によって、増加傾向にあった個体群を2回減少に導くことができた。当初年(1994年)の局所密度は1~120頭/km2と非常に幅が大きかったが、捕獲対策の強化を経て、最終年(2020年)の局所密度は1~60頭/km2となり、局所的な高密度は押さえられる傾向にあった。局所密度と局所捕獲率には正の相関関係が得られ、個体数削減は、より高密度地域で効果が高いことが明らかになった。259のメッシュユニットにおける局所密度の時間的傾向は異なり、クラスター解析によって4パターンのグループに分けることができた。期間内に高密度(50頭/km2以上)状態から半減したメッシュユニットもあれば、当初から低密度(25頭/km2未満)状態で推移しているメッシュユニットもあった。以上のことから、捕獲対策の強化による個体数削減が実証されると同時に、その影響は局所的に異なり、一定の生息密度に達しなければ個体数削減に至らないことが明らかになった。したがって、対象地域の全数を効率的にコントロールするためには、高密度のメッシュユニットを特定し、管理努力を多く割り当てることが重要である一方、低密度のメッシュユニットにおいてさらに個体数を削減するためには、本研究で実施してきたような間接的な捕獲規制緩和では不十分であることが示唆される。