| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-01  (Oral presentation)

両生類の変態モデルを用いた生活史別死亡率と成長速度の推定
Estimation of larval and adult mortality and growth rates using an amphibian metamorphosis model

*岩井紀子(東京農工大学), 立木佑弥(東京都立大学)
*Noriko IWAI(TUAT), Yuuya TACHIKI(TMU)

生活史段階の移行点を最適化することは、生物の適応度を高めるために重要な戦略である。移行点の決定には、移行前後の死亡率や成長速度が大きく関わると考えられるが、これらの値を野外調査によって直接求めることはしばしば困難である。しかし、移行点は進化的スケールで期待される、その種の死亡率や成長速度に基づいて決定されると考えられることから、移行点の決定機構を推定し、実際の移行点から逆算することで、死亡率や成長速度を求められる可能性がある。本研究では、カエルの変態を対象として変態点(変態日およびサイズ)の決定モデルを構築し、飼育実験による実際の変態点から逆算して、対象種の死亡率と成長速度を推定した。モデルでは、変態前後の生存と成長にそれぞれ対応する項を組み込み、成長期が終わると仮定した8月末における生存率と体サイズを乗じたものを適応度の指標とした。また、変態日の体サイズが閾値以下の場合は極端に適応度が低くなるよう設定した。ニホンアカガエル幼生29個体を5段階の餌量で個別飼育し、各個体の成長履歴に対して実現された変態点を、構築したモデルに基づく最適解と考えた。6つの不明なパラメータについて様々な値の組み合わせを設定し、各組合せ下において幼生の成長履歴を与え、その履歴において適応度が最高となる最適変態点を計算した。この点と実現された変態点とのずれの全29個体の総和が最も小さくなるよう、遺伝的アルゴリズムを用いてパラメータの組み合わせを進化させた。その結果、パラメータとして特定された移行前後の死亡率、成長率ともに本種の生態的に妥当な値が得られた。本研究のアプローチは、実際の飼育データに基づき、調査時期などの至近的要因に左右されない、種本来の死亡率や成長速度を得ることを可能とするものである。


日本生態学会