| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-07 (Oral presentation)
寄生性甲殻類のフサフクロムシ(蔓脚下綱, 根頭上目)は、ホンヤドカリなど他の甲殻類に定着・寄生する広義のフジツボの仲間である。本種の雌雄の発生運命は染色体の構成比に依存した遺伝学的システムによって決まっており、甲殻類では例外的に未受精卵の時期から顕著な性的二型を示す。特に、基質への定着を行うキプリス幼生では、体サイズや外骨格、小触角などの形態に性差が顕れる。これは、雌雄のキプリス幼生が異なる基質に定着することに関係している。メスのキプリス幼生はヤドカリ宿主に侵入・寄生する。一方、オスのキプリス幼生は寄生後の成体メスが形成する繁殖器官(エキステルナ)に侵入し、性成熟後に矮雄となる。このように、キプリス幼生の段階で形態のみならず基質選択性にも明確な性差が認められるが、これらの分子メカニズムは全く分かっていない。我々は、フサフクロムシPeltogasterella gracilisが寄生したホンヤドカリ科ヤドカリ類の安定的な採集・飼育法を確立し、実験室でフサフクロムシの孵化幼生を得ること、ならびにキプリス幼生までの飼育に成功した。そこで本研究では、フサフクロムシの形態および基質定着過程の性差創出機構の理解を目指して、雌雄のキプリス幼生のde novo RNAseq解析を実施した。
その結果、オスではionotropic glutamate receptor(iGluR)、homeobox、cuticle関連遺伝子群が、メスではheat shock protein関連遺伝子群の発現量が亢進していることを見出した。本発表では、本解析から見えてきた、メスを巡るオス間競争あるいは定着基質への移動といったフサフクロムシの寄生戦略について考察する。また、予備的な結果ではあるが、キプリス幼生へのiGluRシグナル経路の拮抗阻害薬の影響についても紹介する。