| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-03 (Oral presentation)
吸虫(扁形動物門)は寄生虫の一群で、その一生で複数個体の中間宿主(幼虫の宿主)と1個体の終宿主(成虫の宿主)を利用するが、利用できる宿主は種ごとに異なることが知られている。かつて日本国内には、ヘビ類の口腔に寄生する吸虫は全く記録されていなかったが、2011年以降、西日本産ヘビ類の口腔から、北米を原産とする外来吸虫Ochetosoma kansenseが報告されるようになった。発表者らは、2021年に関東の在来ヘビ類の口腔に吸虫を多数認めた。種同定の結果、西日本産のものとは別種の外来吸虫であると判明したため、生活史(感染経路)を追跡調査するとともに、その移入経路を検討した。
2021~2023年に関東中部(埼玉県~千葉県)で在来のナミヘビ科4種の採集調査を行い、ヘビ類の口腔観察と解剖により吸虫を得た。形態観察とDNAバーコーディング(28SリボソームDNA)の結果、これらの吸虫は北米のナミヘビ類を宿主とする吸虫Lequriorchis tygartiと同定された。一方、得られた虫体のうち大型のものは消化管と生殖器の形態がL. tygartiと若干異なり、成長に伴う形態変化と考えられた。また、寄生されたヘビ類には唾液の過剰分泌が認められた。
本吸虫の属するOchetosomatidae科は、一般に淡水貝類が第一中間宿主、カエル類が第二中間宿主となる。そこで、関東中部(埼玉県~千葉県)で候補動物を採集し、吸虫の幼虫が得られた場合、DNAバーコード[ミトコンドリアDNA(COI)と28S rDNA]により種同定を試みた。その結果、北米原産の外来種サカマキガイから本吸虫の幼虫が得られた。今回カエル類からは本吸虫が得られなかったが、本吸虫の属は原産地の北米ではウシガエルに感染することが知られているため、日本においてもウシガエルがヘビ類への感染源になっていることが想定される。本吸虫の日本への侵入は、北米からのペットのヘビ類の輸入や、輸入水草等に付着したサカマキガイによる可能性が高いと考えている。