| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-10 (Oral presentation)
人間活動の領域の変化等により人間と野生動物の生息域の接点が変化しているとされ、人間と野生動物間の軋轢を生じさせる要因の一つになっている。しかし、都市域で野生動物が利用し得る都市緑地や、自然生態系と都市域の境界を成す近郊林における野生動物の活動の実態には未解明な点が多い。理由の一つとして、都市域に生息する野生動物に関する研究が自然的環境におけるものよりも少ない可能性が考えられる。本研究では、カメラトラップを用いた野生動物研究に着目し、システマティックレビューによって日本国内の研究の現状を把握し、カメラトラップ調査により野生動物による都市緑地および近郊林の利用の実態を明らかにすることを目的とした。
システマティックレビューにより、日本語で公表されたカメラトラップ調査による研究は空間的に偏りがあり、特に都市域における調査例のない県も多いことが示された。そこで都市域のカメラトラップ調査例が少ない場所の一つである京都市で都市緑地と近郊林を対象に調査を行った。
2023年7月に京都市内の都市緑地(京都大学北白川試験地と同理学研究科植物園)と近郊林(同上賀茂試験地)に各5台ずつのカメラトラップを設置し、検出された種と日時を記録した。ハクビシン、タヌキ等がどちらの調査地でも検出されたのに対し、イノシシ、ニホンジカ等は近郊林でのみ検出された。検出された種全体のカーネル密度推定に基づく日周行動には都市緑地と近郊林の間で有意な差が見られた(Wald検定,p<0.01)。一般化線形混合モデルを用いて、野生動物の検出場所に周辺の土地利用や人口などの定常的な環境条件が与える影響、および、野生動物の行動の経時変化に気象条件など経時的に変動する環境条件が及ぼす影響について評価を行った。結果をもとに都市とその近郊を利用する野生動物に人間の活動が及ぼす影響について考察した。