| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-03  (Oral presentation)

遊泳中のウミガメにおける受動能動抗力比の実験的推定
Experimental estimation of the active-to-passive drag ratio in swimming sea turtles

*黒田健太(大気海洋研究所), 齋藤綾華(大気海洋研究所), 河合萌(大気海洋研究所), 阪井紀乃(大気海洋研究所), 呂律(大気海洋研究所), 飯尾昭一郎(信州大学), 坂本健太郎(大気海洋研究所), 佐藤克文(大気海洋研究所)
*Kenta KURODA(AORI), Ayaka SAITO(AORI), Megumi KAWAI(AORI), Kino SAKAI(AORI), Lyu LYU(AORI), Shouichiro IIO(Shinshu Univ.), Kentarou Q. SAKAMOTO(AORI), Katsufumi SATO(AORI)

背景・目的
ウミガメは広く外洋を回遊する動物であり、最近の研究で、その回遊範囲は海棲哺乳類や海鳥の半分程でありながら、そのときの対水速度は1/4程におさえるという高効率が明らかになった。しかし、そのような割合広範囲な回遊を可能にする理由は明らかになっていないため、本研究では回遊の障害である水の抵抗(抗力)を、「ウミガメがヒレを動かさず泳ぐ時に受ける受動抗力」と「ウミガメが前肢を動かし自力で泳ぐ時に受ける能動抗力」に分け、受動抗力に対する能動抗力の比(能動受動抗力比)を推定するために野外での操作実験を行った。
方法
ウミガメが水平定速で遊泳しているとき、ウミガメが生み出す推力と能動抗力で力のつり合いの式が成り立つ。しかし能動受動抗力比と揚力係数が未知数として存在するため、ウミガメに抵抗値が既知の抵抗板を曳航させ、新たな力のつり合いの式を連立し解くことで、能動受動抗力比を明らかにする。この2つの異なる状態で泳ぐウミガメの3軸加速度、遊泳速度、深度、映像のデータを行動記録計と映像記録計から得る。そのために放流後1時間経過すると抵抗板のみが切り離され、さらに1時間経過すると行動記録計と映像記録計が切り離されるように設定した装置一式を野生のウミガメに取り付け、放流した。その後映像記録計と行動記録計を海から回収し、その行動データと映像を解析した。
結果・考察
抵抗板がある状態とない状態で水平定速遊泳がそれぞれ4箇所あったため、その区間の遊泳速度、加速度、映像のデータを解析し、それぞれの状態での遊泳速度と運動努力量を2方程式に代入し、能動受動抗力比は1.31という結果を得た。海棲哺乳類や海鳥の能動受動抗力比が1より小さく能動移動により遊泳コストが上がりにくいのに対し、ウミガメは能動移動での遊泳コストが上がりやすく、広範囲の回遊には海流に依存した受動的な移動の割合がより高いと考えられる。


日本生態学会