| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-05 (Oral presentation)
ヤドカリの貝殻闘争では、攻撃個体 (以後アタッカー) が相手個体 (以後ディフェンダー) の殻に自分の殻を連続的に打突し、ディフェンダーを殻から追い出して貝殻を交換する。打突行動は熾烈には見えないが、ディフェンダーは柔らかい腹部を曝け出すというリスクがあるにも拘わらず殻を諦め出てくる。ヤドカリは一般的に捕食者からの攻撃を、貝殻の頑健さを頼りに中に閉じこもって防御する生物であるが、貝殻を割ることのできる捕食者も多く、閉じこもるのは得策ではないかもしれない。もし打突行動が捕食者からの攻撃を想起させるとすれば、殻闘争時のディフェンダーの行動に影響を与え、殻交換行動にも違いが生じる可能性がある。そこで本研究では、ディフェンダーに捕食リスクを認識させることで殻交換が促進されるかどうかを、ユビナガホンヤドカリ Pagurus minutus を用いて検証した。アタッカーを、捕食リスクを認識したディフェンダーと闘争させた場合に、捕食リスクを認識しない場合と比べ、殻交換の成功率が高くなるか、また、殻交換が容易に起こりやすくなるかといった、捕食リスクが殻交換に与える影響について調べる室内実験を行った。その結果、捕食リスクの有無により殻交換の成功率に違いはなかったものの、捕食リスクを認識した場合には1秒あたりの打突数が少ない闘争でもディフェンダーが殻を諦める傾向があった。また、1連(連続した打突のひとまとまり)あたりの打突数が多い闘争ほどディフェンダーが殻を早く諦め殻交換が成立する傾向があった。すなわち、ディフェンダーは捕食リスクが無い時には打突攻撃されても容易に殻を諦めなかったのに対し、捕食リスクが有るときには殻を諦めやすくなったと解釈できる。これらは近縁種ホンヤドカリP. filholiを用いた先行実験と類似した結果であった。したがって、ユビナガホンヤドカリにおいても捕食リスクの存在により殻交換が起こりやすくなると考えられる。