| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-06 (Oral presentation)
隠蔽的擬態や標識的擬態といった色彩パターンが、捕食者への視覚的効果によって受けうる捕食回避能力を調べる際に、シグナル受容者である捕食者の色覚を考慮することは肝要である。顕著な例として、鳥はヒトとは異なり4色型の色覚を有しているうえ、一部の種では可視光に加えて紫外線(UV)の反射を感知することができるため、鳥の獲物となりうる昆虫や小動物のもつ色彩パターンの捕食回避能力を調べる際にはUVから可視光までを考慮しなければならない。実際に、ベイツ型擬態やミュラー型擬態といった標識的擬態の完成度評価において、上記の観点からUVを解析に取り入れた先行研究は複数存在する。しかしながら、特定の色彩パッチ(例: 翅のある特定の領域、特定の斑紋)に着目してその間で反射スペクトルの比較がおこなわれるにとどまっており、色彩パッチの空間分布(形状や配置)まで同時に考慮されたことはなかった。
画像分類において高い精度を発揮する畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の特徴抽出器は、生物の形態的類似度の評価にも有用であることが近年明らかになりつつある。CNNは画像そのものを入力とするため、色彩パッチのスペクトルだけでなく空間分布を同時に考慮できる
そこで本研究では、可視光(RGB)画像およびUV画像を撮影して4チャネル画像を取得し、入力チャネル数を4としたCNNによる出力に着目することで、可視光からUVを用いて色彩パッチのスペクトルおよび空間分布の両方を同時に考慮した類似度評価手法を開発した。材料として、南西諸島に生息するチョウ類の構成するmimicry ring(擬態環)のうち、カバマダラ擬態環やベニモンアゲハ擬態環に着目し、東京大学博物館にて標本画像の撮影をおこなった。発表では、通常の3チャネル画像を用いた場合と4チャネル画像を用いた場合とで擬態の完成度に変化が生じるかどうかを調べた結果を報告し、幅広い波長帯を考慮することの意義について考察する。