| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-07 (Oral presentation)
一般的に被食者は捕食者から逃げるが、捕食者に対して反撃を行う被食者も存在する。そのような動物として植食性節足動物であるケナガスゴモリハダニStigmaeopsis longus(以下ケナガスゴモリ)が知られている。本種はタケ・ササ類に寄生し、捕食者から身を守るために寄主植物の葉裏に巣網をつくり、集団で共同営巣する。しかし、本種の天敵であるタケカブリダニTyphlodromus bambusae(以下タケカブリ)は、ケナガスゴモリの作った巣網を突破し、巣に侵入することが出来る。巣に侵入したタケカブリ雌成虫は、主に卵などを捕食し、自身の卵も産み落とす。しかし、孵化したタケカブリ幼虫はケナガスゴモリ成虫によって巣から追い出されるほか、殺されることもある。近年、これら反撃行動に加えて、ケナガスゴモリ雌成虫が巣内のタケカブリの卵を転がし、巣の出入り口や外へ移動させる行動(以下卵転がし行動)が観察された。しかし、この卵転がし行動の詳細や捕食回避効果については全く分かっていない。そこで、ケナガスゴモリの巣にタケカブリを導入して、巣内のどこに産卵するのかを確認し、その卵に対してケナガスゴモリ雌成虫が転がす頻度や卵の移動先を確認した。また、録画によりその行動の詳細を観察した。その結果、タケカブリには1~3卵産ませたが、卵の移動の有無は産卵数の影響を受けなかったものの産卵場所の影響を受け、ケナガスゴモリの行動圏内に産み落とされた卵は移動される頻度が高かった。一方、卵の移動先は、産卵場所の影響を受けなかったものの産卵数の影響を受け、卵の数が多いほど生活の邪魔にならない巣の端や出入口付近へ移動されていた。ケナガスゴモリは巣内歩行中にぶつかって初めて天敵の卵を認識し、認識後は第1脚を使って積極的に転がしていた。これらの結果から、卵転がし行動は天敵の卵を行動圏から排除するものであることが示された。今後はそれが捕食回避につながるのかを調査する必要がある。