| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-01  (Oral presentation)

エゾシカによる種子散布 -散布種子相・消化管通過・散布距離-
Seed dispersal by sika deer in Hokkaido: species composition, gut passage, and dispersal distance

*綱本良啓(道総研), 長雄一(道総研), 宇野裕之(東京農工大), 池田智亮(札幌市円山動物園), 祐川猛(札幌市円山動物園), 松本直也(札幌市円山動物園), 朝倉卓也(札幌市円山動物園), 小林木野実(札幌市円山動物園)
*Yoshihiro TSUNAMOTO(Hokkaido Res. Org.), Yuichi OSA(Hokkaido Res. Org.), Hiroyuki UNO(TUAT), Tomoaki IKEDA(Sapporo Maruyama Zoo), Takeshi SUKEGAWA(Sapporo Maruyama Zoo), Naoya MATSUMOTO(Sapporo Maruyama Zoo), Takuya ASAKURA(Sapporo Maruyama Zoo), Konomi KOBAYASHI(Sapporo Maruyama Zoo)

北海道に広く分布するエゾシカは、採食や踏みつけによる植生破壊が問題となっているが、種子散布者として植物の世代更新や分布拡大に貢献している可能性がある。しかし、エゾシカの種子散布機能に関する知見はほとんど存在しない。本研究では、エゾシカの種子散布機能を解明することを目的として、野外で採取した糞を用いた発芽試験、飼育個体を用いた採餌試験、野生個体のGPS追跡データを用いた種子散布距離推定を行った。
発芽試験では、主に北海道東部地域から野生個体の糞塊を採取し、糞塊あたり約1 gをポットに播き発芽を定期的に記録した。採餌試験では、飼育個体に植物種子(ヤマブドウ400種子、ハマナス800種子、サルナシ1,000種子)を与えた後、約1週間糞を1日3度回収し、含まれる種子数を計測した。試験は合計3個体を用いて5回実施した。種子散布距離は、消化管通過時間あたりの移動距離として推定した。GPS追跡データは、北海道白糠丘陵で捕獲した16頭の9–12月に関するもの(農林水産技術会議, 2007)を、定住期と越冬地への移動期に分けて用いた。
発芽試験の結果、野生個体の糞(181糞塊、215.1 g)から73個体10分類群の植物が発芽した。そのうち38個体がイネ科であったが、ヤマブドウやマタタビ属など液果樹木の発芽も観察された。採餌試験による健全種子の回収率は、植物やシカ個体により異なったが最大でも半分程度であった(ヤマブドウ1.5–55.0%、サルナシ0.8–29.4%、ハマナス0.0–6.8%)。消化管通過時間は、ヤマブドウ23–121時間、サルナシ23–145時間、ハマナス23–101時間であった。定住期の種子散布距離は、ヤマブドウで平均573 m、最大8,670 m、サルナシで平均614 m、最大9,834 mであった。一方で、越冬地への移動期の散布距離は顕著に長く、ヤマブドウで平均2,915 m、最大18,496 m、サルナシ平均3,770 m、最大18,341 mであった。以上より、エゾシカは、多くの種子を消化過程で破壊してしまうが、長距離散布者として貢献していると考えられた。


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