| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) F03-05 (Oral presentation)
奈良公園内のニホンジカ(以下シカと表記)の採食圧の高い大仏殿北調査区(以下大仏殿北と表記)と、採食圧の低い竹林調査区(以下竹林と表記)に分布するイラクサの実生個体の刺毛長の増大に及ぼすシカとアカタテハの幼虫の影響を明らかにする目的で、両調査区内の、未被食の当年生実生各19個体を選定した。
2022年4月から同年10月まで月1回、それぞれの調査区内の個体の葉の刺毛長と累積被食率を求めた。各個体から3節目の葉を1枚採取し、表面と裏面の画像を取り込み両面の刺毛を任意に各5本選び、刺毛長を計測した。目視による各個体の被食部位の観察で、累積被食率を求めた。
刺毛長の分析結果:葉の表面、裏面共に、①場所間の違い(大仏殿北>竹林)②月間の違いが有意であった。
竹林についてアカタテハの幼虫による被食率の低い2021年と高い2022年を比較した結果、アカタテハの幼虫の葉の採食では刺毛長の増大は認められなかった。一方、2021年に採取した竹林個体の果実から得られた実生を圃場に移植し、シカの採食を模した茎頂切除を行った結果、切除された個体から伸長した新しいシュートの葉について有意な刺毛長の増大が認められた。
刺毛長の場所間差をもたらした原因についての仮説
① シカの影響の場所間の違い ② シカとアカタテの幼虫の両方の影響の場所間の違い ③ イラクサ個体の被食部位の場所間の違い
上記の仮説を検証するため更なる研究が必要である。
植物は過去の出来事を記憶し、この出来事が繰り返される時、これらの記憶が反応に生かされる(Kinoshita & Seki 2014)。大仏殿北と竹林の親世代における、上記2種類の植食者による採食部位の違いと採食の程度の記憶が、それぞれの場所のイラクサ個体の表現型可塑性により種内変異を生み、自然選択を経て、エピジェネティック遺伝等でこれらの変異が子世代に受継がれたものと推察される。