| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) F03-06  (Oral presentation)

花を集めれば遠くまで目立つ?:花密度に伴うハチの検出限界の変化
Can aggregated flowers be detected by pollinators from a distance?: exploring changes in flower detectability with inflorescence density

*穴澤颯太(筑波大学大学院)
*Souta ANAZAWA(Tsukuba Univ)

複数の花を集めて咲かせる植物の株や花序には、多くのポリネーターが好んで訪れる。しかし、この誘引効果が生じるメカニズムについては、実はほとんど明らかにされていない。演者らは「密集した花は、解像度の低い昆虫の眼には融合した大きな塊に見えるため、個花の検出限界よりも遠方の個体を誘引できる」というWertlenら(2008)の融合効果仮説を厳密に検証するため、クロマルハナバチを用いた室内実験をおこなった。実験では黄色の人工花(円形に切り抜いた画用紙)を用い、3個の花を密に配置した花序A、まばらに配置した花序B、1個の花だけを配置した花序Cを用意した。融合効果仮説が正しければ、ハチの眼には花序Aだけが大きな塊に見えるはずである。まず、黄色の花に餌があることを覚えさせるため、Y字迷路の一方の腕にショ糖水溶液と共に黄色い花を提示し、他方には苦いキニーネ水溶液のみを置き、ハチを訓練した。続いて、学習後のハチに花序A〜Cをさまざまな大きさで提示し、ハチが花序のある側の腕を正しく選ぶことができる視角度(ハチから花序までの距離の指標)の最小値=検出限界を明らかにした。すると予測通り、ハチの視覚的な検出限界は、花の数が多いほど、密に集合するほど改善されることがわかった。とくに、まばらな花序Bより密な花序Aの方が遠くから検出されたという結果は、視覚融合仮説を強く支持する。ただし、まばらな花序Bでも、花1個からなる花序Cより遠くから検出されたことから、視覚融合は低い花密度でも弱く生じるのかもしれない。これらの結果は、青色の花でおこなった先行研究とほぼ同じであり(上原ら 2021)、視覚融合による検出限界の改善効果は、花の色相によらず発揮されると考えられる。以上は、花序という形質が、緑コントラストが低く遠くから目立ちにくい花色の弱点を補う有効な戦略となり得る可能性を示唆する、興味深い知見である。


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