| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-01  (Oral presentation)

世界の農業生産が森林の絶滅危惧種に与える影響とその対応策
The impacts of global forest loss on biodiversity induced by agricultural production and consumption

*篠田悠心, 角谷拓, 竹内やよい, 南斉規介(国立環境研究所)
*Shinoda YUSHIN, Taku KADOYA, Yayoi TAKEUCHI, Keisuke NANSAI(NIES)

農業は、世界中で森林をはじめとする自然生息地の損失を引き起こす最も深刻な要因の 1 つである。どの地域で生産されたどの作物が生物の生息地を破壊し、その作物がどこで消費されるのかを評価することは、食糧生産、消費と生物多様性保全の両立を図るためには避けては通れない。これまで、各地域各作物の生産が引き起こす森林破壊は、グローバルスケールで評価されてきた。一方、生物の分布も空間的に不均一であり、同じ面積の森林破壊であっても、地域が違えば生物への影響も異なる。しかし生物分布の空間的不均一性については十分評価に反映されておらず、特に生物分布の調査が十分に行われていない国や地域ではその森林破壊の影響が軽視される可能性があった。
この研究の目的は、生物分布の調査が少ない地域の生物影響を見逃すことなく、各地域の農業生産と各作物の消費による森林の生物多様性損失を評価することである。さらに、農業による対策が不可能または不十分な場合に利用できる、食糧産業以外の産業で代替的に生物多様性損失を軽減するために効果的な選択肢を提示することも目指した。これらの目標を達成するために、森林消失面積、42種の作物の栽培面積、絶滅危惧種の分布とその絶滅危惧種に関する世界的なGIS データを使用し、各作物の生産によって引き起こされる森林消失と種の絶滅リスクを 10km の空間解像度で計算した。
農業による生物への影響は、作物の種類や地域によって大きく異なった。特徴的な結果として、先進国は近年、東南米の、絶滅リスクの高い生物が生息する森林を広く破壊している作物をより多く輸入するようになるトレンドがあった。さらに、東南米は農業のみを絶滅要因とする種が相対的に多く、他の産業で代替できない影響が生じていることが明らかになった。今回提示する指標が、TNFD等の枠組みで求められる、輸入国における原材料生産の環境への影響評価をより正確にすることを期待している。


日本生態学会