| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-06  (Oral presentation)

感染症対策、水産資源管理、野生動物管理、総合的害虫管理における個体群管理の比較【B】
A comparative study of population management approaches in infectious disease, fisheries and wildlife management, and integrated pest management【B】

*松田裕之, 渡邉聡(横浜国立大学)
*Hiroyuki MATSUDA, Akira WATANABE(Yokohama National University)

この講演では、感染症対策、水産資源管理、野生生物管理、総合的害虫管理など、異なる分野の個体群管理アプローチを比較し、その類似点と相違点を検討する。これらの分野での個体群管理戦略の開発に貢献し、潜在的な相乗効果を探る。これらの分野に共通の要素として、科学者は選択肢を提供し、政策決定は利害関係者に委ねられる。また、時間差の少ない監視指標を選び、経済的実現可能性を考慮し、説明責任を明確化することは共通している。感染症対策と生態学的個体群管理は、個体群動態モデルに基づき、不確実性に対処し、社会経済的側面を考慮し、利害関係者の間でリアルタイムに意思決定を行うという類似点がある。しかし、感染症対策のEBPM(Evidence-Based Policy Making)と順応的管理は異なるアプローチと言える。EBPMは科学的根拠志向であるのに対し、順応的管理は仮説駆動型の管理実践である。順応的管理では、証明された部分と仮説の部分を区別し、仮説を検証する計画を明らかにすることが重要である。費用対効果分析も重要であり、また政策決定の際の価値判断は政策立案者に委ねられる。管理目標は社会的選択であり、生態系アプローチによれば、経済的文脈でも決まる。研修や認証制度は、公衆衛生の分野では積極的に提供されており、生態的個体群管理の分野も公衆衛生から学ぶべきことがある。しかし、統計的手法は個体群管理とは使い方が異なり、感染症では新規感染者数の誤差を無視したうえで実効再生産数の時間変化を推定しているが、野生動物管理では自然増加率を一定と仮定して個体数を推定する。最後に、科学者の関与が限定されている点は共通する。多様な分野の専門家が科学的提言に関与し、リスクコミュニケーションの専門家が利害関係者とのコンセンサスを得ることが提案されている。しかし、実際の研究交流は極めて乏しく研究者がお互いの取り組みを理解し合う機会を持つことが有益だろう。


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