| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-08  (Oral presentation)

エキノコックスの感染動態シミュレーションにおける群集構造、行動学と宿主操作の相関
Interaction of community structure, behavior and host manipulation on the simulated transmission dynamics of Echinococcus multilocularis

*森健介(京大生態研センター)
*Kensuke MORI(CER, Kyoto Univ.)

生物多様性は感染症を減らす希釈効果があるとされ、現在感染症の危険性が増している理由の一つに生物多様性の減少があると言われている。しかし生物多様性と言ってもその推定にはいくつもの指数やスケールの問題があり、どの計測が適切なのかは明確ではない。また観測されている生物多様性と感染症の関係性は必ずしも負の相関ではなく、感染系や観測スケール、多様性や感染症の増減の定義などによってバラつきがみられる。また感染経路や宿主の行動やパターン、地形や生息地の分布構造、そして寄生種による宿主操作など、様々な要素が生物多様性と相互作用して感染系を作り上げていると思われる。
そこで空間明示個体ベースシミュレーションモデル用いて多様性が希釈効果をもたらす条件の検証を試みようと考えた。モデル系として複雑な生活サイクルを持つ寄生虫のエキノコックスを用いた。エキノコックスは複数の宿主を必要とし、多数の空間スケールの要素が相互作用しながら感染サイクルを作り出している。そのため生物多様性との相関でも直接感染する系とは違ったパターンを示す可能性が高い。シミュレーションモデルを使うことによりこの感染動態に影響する要素を細かく操作・分析することができるようになり、野外観察では得られない見地で生物多様性・感染症の相関を解析できる。
シミュレーションの結果、この感染系では感染症動態に対して生物多様性には普遍的な負の相関関係は見られず、むしろ正の相関関係が見られる傾向にあった。その他の要素との交互作用なども含め、複雑な感染サイクルを持つ感染系において生物多様性が普遍的に感染動態への希釈効果があるとは言えないようである。


日本生態学会