| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-10  (Oral presentation)

寄主植物特異性は植食性昆虫の高い多様性を説明できるか?【B】
Can host plant specificity explain high diversity of phytophagous insects?【B】

*難波利幸(大阪公立大学)
*Toshiyuki NAMBA(Osaka Metropolitan University)

 数百万種といわれる地球上の生物のうち,昆虫は50%以上,高等植物は約20%を占め,昆虫の中でも植食性昆虫は約25%ととりわけ大きな割合を占める。そこで,生物多様性の維持機構を明らかにするためには,植食性昆虫と植物の相互作用を,その関係に特徴的な性質に基づいて記述した大規模な数理モデルで,生物群集の構造と動態を調べる必要がある。
 多くの昆虫個体群は,世代が重ならない離散世代の動態を示し,密度効果や種間競争が弱く,個体数も種構成も時間的に大きく変動する。また,植食性昆虫には少数の寄主植物しか利用しない狭食性のものが多いので,植食性昆虫の多様性を説明する仮説に,寄主植物特異性がある。これらの特徴を取り込んだ最も単純な数理モデルは,植食性昆虫と食草が一対一に対応するもので,植食性昆虫間には競争はないが,光や水,栄養塩などの限られた共通の資源を利用する植物の間には強い競争が起こる。
 本講演では,離散世代の個体群動態を記述する多数の連立差分方程式からなる数理モデルを構築し,植食性昆虫1種,植物1種の食う食われる関係の安定性をもとに,2種系の安定性と植物間の種間競争の強さによって植物―植食者系の多様性がどのように決まり,どのような場合に,各種の個体数が変動しながら多種が共存するのかを説明する。
 この系では,植食性昆虫間の競争がなく,植物間の競争が弱くても,植物と植食性昆虫の対の数が増えると,多くの植食性昆虫が絶滅する。しかし,植物が一部の他種としか競争しない場合には,植物の生物量の減少が抑えられ,多くの植食性昆虫が共存する。また,植食性昆虫が主要な食草以外の植物をある程度利用すると多くの種が共存するが,利用する植物種の割合が増えると,消費型の競争と見かけの競争のために,昆虫も植物も絶滅する種が増える。植物間の競争がまばらで,植食性昆虫が狭食性であることが多種共存には必要である。


日本生態学会