| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-02 (Oral presentation)
植物は生物起源揮発性有機化合物(BVOC)を大気中に放出しており、BVOCを枝間での個体内シグナル伝達に利用することで、対植食者の抵抗性を誘導できる。また、近隣の植物個体は、他個体が発したBVOCシグナルに反応することで、植食者に対する防御力を高めたり、成長パターンを変化させたりして、食害のリスクに対応できる。BVOCによる植物のシグナル伝達は、生態学的に興味深い現象であるにもかかわらず、その進化に関する根拠や、放出レベルの多様性に寄与する要因は、まだ十分に解明されていない。BVOCシグナル伝達の進化条件を解明するために、我々はBVOCを放出する戦略と放出しない戦略からなる進化ゲームモデルを開発した。このモデルでは、BVOCが植物の適応度に与える影響を、2種類の効果で定義した。1つは、植物がコストをかけて自ら発したBVOCによって食害を軽減する個体内コミュニケーションである。もう1つは、他個体由来のBVOCに反応することで、コストをかけずに食害の影響を変化させる個体間コミュニケーションである。格子モデルとランダム分布モデルという2つの数理モデルを用いて、個体内コミュニケーションや個体間コミュニケーション、空間構造がBVOC放出戦略の進化にどのような影響を与えるのかを調べた。その結果、個体内コミュニケーションの効果が高いとBVOC放出戦略の進化が促進されることが明らかになった。対照的に、個体間コミュニケーションの効果が高いと、BVOCの放出コストを負担せずに、近隣の植物個体から放出されるBVOCによって利益を得るチーターが有利であった。また、BVOCによるシグナル伝達の空間的スケールが狭いほど、BVOC放出戦略が進化する可能性が高くなることも明らかになった。本研究は、植物におけるBVOC放出戦略の進化を支配する複雑なダイナミクスや、植物間コミュニケーションの進化に示唆を与えるものである。