| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-03 (Oral presentation)
生物個体間の協力の進化と維持に関する従来の理論的研究は、専ら自分の適応度を下げて相手の適応度を上げる利他行動に焦点が当てられてきた。しかし、現実の協力関係においては、自分の適応度を上げる行動が付随的に他個体の利益にもなっていることも多い。この研究では、公共財ゲームの枠組みを用いて、そのような「副産物」としての協力の進化動態と個体群動態の相互作用について理論的に解析した。
協力者と非協力者からなる、個体密度が可変の個体群を考える。各個体は単位時間あたり一定の確率で公共財ゲームに参加する。ゲームの参加に関する個体間の相互作用はないとし、参加者数の確率分布は期待値が個体密度に等しいポアソン分布に従う。各ゲームにおいては協力者のみが一定のコストを支払う。ゲームの報酬の合計は参加者全体が支払ったコストに比例し、非協力者も含めた参加者全体で均等に分配される。各個体の繁殖率は、分配された報酬と自分が支払ったコストの差に比例するとする。
解析の結果、個体の死亡率が一定で、個体密度の動態に密度依存性がなく、協力者頻度の動態に頻度依存性がない場合、個体密度と協力者頻度に関して中立安定な内部平衡点が存在し、解の軌道はこの平衡点のまわりを周期振動することがわかった。すなわち、個体密度が小さいときはゲームの参加者が少ないので協力者が有利となり協力者頻度が増加し、それに伴って個体群全体の密度も増加するが、やがて協力者を搾取する非協力者の頻度が増加して個体密度が再び低下するというサイクルが生じる。
協力者の死亡率に密度依存性を導入した場合、平衡点は収束安定となる。いっぽう、非協力者の死亡率にのみ密度依存性を導入した場合、密度依存性が小さいときは平衡点は収束安定になるが、大きいときは平衡点が不安定になり、協力者頻度が1に収束し、個体密度は発散する。