| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-05 (Oral presentation)
熱力学的なシステムの安定性はエントロピーもしくは内部エネルギー状態によって決定する。生態系の安定性においても熱力学的視点を導入し、群集の発展とエントロピーや内部エネルギーとを関係づけようとする試みがなされてきた。熱力学法則は平衡状態周りや孤立系・閉鎖系の挙動の説明に強みを持つ一方、群集ダイナミクスは非平衡な開放系での振る舞いであるため、どこまで理論体系が適用可能か不明瞭である。また、生物増殖は必ずしもエネルギーの律速を受けるわけでは無いため、エネルギー的な(熱力学的な)律速を受ける群集ダイナミクスに注目した場合、熱力学法則が重要となるかもしれない。本研究ではATP合成に用いる反応機能で微生物グループを分類した個体群動態モデルを用い、反応機能獲得の進化による群集の発展とギブスエネルギーの関係を調べた。微生物群集の多様性の上昇は系のギブスエネルギーを概ね減らす方向に向かうものの、種間相互作用の結果によっては必ずしもギブスエネルギーが最小となる群集に進化が収束するわけでは無いことがわかった。一方で、群集の局所安定性とギブスエネルギーとの間にはやや相関があった。最終的に収束する群集に多重安定性が存在する場合にそれぞれの機能群の組成を比較したところ、多くの場合機能群の重複が存在した。これらの結果は、微生物群集がギブスエネルギー利用に強く律速される場合には、微生物機能と進化はある程度熱力学的な状態によって方向づけられていることを示唆する。