| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) G03-06  (Oral presentation)

山地小流域における微地形に応じた土壌メタンフラックスの変動
Microtopography-related variability of soil Methane flux in a small mountainous watershed

*渡辺陽樹, 坂部綾香, 小杉緑子(京都大学)
*Haruki WATANABE, Ayaka SAKABE, Yoshiko KOSUGI(Kyoto Univ.)

重要な温室効果ガスであるメタンの特性として,好気的な土壌ではメタン酸化菌による吸収が,嫌気的な土壌ではメタン生成菌による放出が起こることが知られている.そのため,大部分が水で飽和していない森林土壌はメタンの有効な吸収源と考えられている(Le Mer and Roger, 2001).森林土壌におけるメタンフラックスに関わる環境要因として,表層の地温・土壌水分量に着目した先行研究が多い.しかし,飽和帯を有する森林では,表層近くの不飽和土壌が好気的環境下でメタン酸化に関与すると同時に,地下部の飽和帯が湛水条件下で嫌気的環境を発達させ,メタン生成に関与している可能性がある.そこで,本研究では飽和帯を有する温帯林で,地下部の要因を含む環境要因が土壌メタンフラックスの時空間変動に与える影響を明らかにすることを目的とした.
観測は滋賀県南部に位置する桐生水文試験地で,2022年7月20日から2024年1月23日まで月1, 2回の間隔で行った.飽和帯が存在する斜面下部から飽和帯が存在しない斜面上部にかけてチャンバーを19地点に設置し,CH4/CO2/H2O Trace Gas Analyzer (LI-7810, LI-COR Inc.) を用いた閉鎖循環式チャンバー法により土壌メタンフラックスを算出した.またチャンバー近傍の土壌および観測井戸で,地温・土壌体積含水率・有機物層の厚さ・地下水位を測定した.
土壌メタンフラックスは観測期間中,全地点で負の値(土壌による吸収)を示した.多くの地点で地温と土壌メタンフラックスの時間変動の間に有意な相関は見られなかった.土壌体積含水率と土壌メタンフラックスの時間変動との間には正の相関が見られたが,空間変動との間にはばらつきが見られた.本研究では土壌メタンフラックスの空間変動は,有機物層の厚さと負の相関,飽和帯に位置する地点で地下水位と正の相関を示し,表層の環境要因と地下部の水文学的要因の両方が土壌メタンフラックスの空間変動に重要であることが示唆された.


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