| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) G03-09 (Oral presentation)
森林は、垂直方向の階層構造が発達しており、この階層は豊富な節足動物群集を支えている。一般的に、林冠は植物生存部に由来する生食食物網を、林床は枯死有機物に由来する腐食食物網を保持する。しかし、日本で優占するスギ人工林では、林冠においても腐食食物網が保持されるとともに、捕食者(クモ類)が豊富に生息している。スギ林では、腐食者(トビムシ)が林床から林冠へと移動することが知られていることから、林冠の捕食者の餌資源が林床に生息する捕食者の餌資源の由来と同じであれば、餌資源は林床から林冠に供給されている(系外流入)と想定される。本研究では、スギ林冠および林床の節足動物を採集し、炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)分析を行うことにより、針葉樹林の階層構造における節足動物の食物網構造を推定することを目的とした。
スギ林の林床・林冠の両階層から得られた13分類群のクモ類、15分類群の餌資源候補となる節足動物、4種類の基底資源について分析を行った。調査の結果、林冠と林床の2階層の食物網は、δ13Cの値によって区別されたのに対して、δ15Nの値には有意な差がみられず、林冠と林床では腐食者の餌資源の基底資源が異なると考えられた。一方、クモ類のδ15Nの値は複数の栄養段階をまたがっており、クモ類同士のギルド内捕食の存在が示唆された。クモ類の採餌戦略(造網性/徘徊性)間では、同位体比に有意な差はみられなかったが、クモ類の体サイズとδ15Nの値との間に正の相関がみられ、大型のクモ類が、小型あるいは幼体のクモ類を捕食する傾向にあると推察された。