| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-02 (Oral presentation)
適応進化の将来予測はどこまで可能だろうか?適応過程には遺伝的要因,例えば形質の遺伝様式や遺伝的浮動などが関与するため,それらを考慮することが予測には必要である.そこで本研究では単一遺伝子座(Eda遺伝子座)の2アリルでほぼ説明される単純な遺伝的基盤を持つトゲウオ科のイトヨの鱗板枚数の進化をモデルとし,北米のワシントン湖での鱗板枚数進化の予測可能性を定量的に検証した.1969年から2016年までの4つのデータポイントにおいて鱗板枚数は継続的に増加し,また鱗板完全型アリルの頻度も上昇していることが確認された.この急速な進化を説明する選択係数を推定するため,湖周辺集団からのアリルの流入および遺伝的浮動を考慮した個体ベースシミュレーションと,それに基づく近似ベイズ計算を行った.選択係数の推定値は十分に大きい正の値となったことから,鱗板枚数の増加は強い方向性選択の結果であり,その他の中立的な過程では説明できないことが示された.加えて2022年にもサンプリングを行ったところ,鱗板枚数は予想通り2016年よりも増加していた. しかし、2022年に観測された鱗板完全型のアリル頻度は上記の推定された選択係数から予測される頻度を有意に上回っていた。両者の不一致の原因として鱗板の遺伝様式の変化の可能性を検証したが,Eda遺伝子座における連鎖不平衡,アリル間のdominanceには変化は見られず、また、Eda遺伝子座以外の新たな遺伝子座の進化も見られなかった.これらの結果から何らかの環境の変化が鱗板完全型アリルへの選択圧を高めた可能性が示唆された.本研究は選択圧が十分に強いと進化の質的予測は比較的良好であるものの、定量的予測は観測していない様々な環境要因の変化が影響しているため難しいことを示唆している.