| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-10 (Oral presentation)
夜間の人工光(ALAN)は、急速な都市化に伴って急速に普及し、都市部の環境変化の一因となっている。最近の研究では、都市化のストレスに対応した表現型の可塑性や適応進化によって、さまざまな種が都市で存続していることが明らかになってきた。しかしながら、母性効果や他の環境要因からの影響を排除した上で、表現型と遺伝子発現メカニズムの両方に焦点を当てた研究は限られている。本研究では、都市-郊外勾配に沿った幅広い環境に生息するオウトウショウジョウバエを用い、夜間の微弱な人工光が本種の日周活動や遺伝子発現に与える影響を検証した。まず、関東の都市部と郊外部で採集された雌をもとに近交系統を作出し、都市部と郊外部の各8地点に由来する全16系統を選定した。各系統について夜間を完全な暗環境とする条件(コントロール条件)と、夜間に微弱な光を照射する条件(ALAN条件)で産下卵を羽化するまで飼育した。得られた成虫について恒暗条件で48時間にわたり活動量を記録し、内在リズムや日周活動パターンを推定した。その結果、ALANが個体の一日の合計活動量による増加と概日リズムの周期の短縮を引き起こしていることが明らかになった。ただし、概日リズムの周期の短縮は、都市集団では小さかった。また、ALANが成虫の生存日数に与える影響を評価するために、前述の飼育条件で得られた成虫を用いて生存時間分析を行なった。その結果、郊外集団はコントロール条件で、都市集団はALAN条件で生存率が高くなることがわかった。さらに、各条件で飼育された成虫を用いてトランスクリプトーム解析を行なったところ、ALAN暴露により、概日リズム関連遺伝子が都市集団と郊外集団で異なる反応を示すことが明らかになった。ALANが日周活動の変化の撹乱を引き起す一方で、都市集団は概日リズム関連遺伝子の発現パターンを変化させることでALANへの耐性を獲得してきたことを示唆している。