| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) H02-02  (Oral presentation)

種内の相加遺伝分散・共分散の変化を伴う装飾形質のオス二型の進化【B】
Changing additive genetic variance and covariance within a species causes evolution of male dimorphism【B】

*森田慶一, 大槻久, 佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Keiichi MORITA, Hisashi OHTSUKI, Akira SASAKI(SOKENDAI)

イトトンボのオスの羽模様に派手・地味なもの二種類があるというような派手な形質のオス二型の進化は、繁殖においてオスメスに別々のコストが生じることに着目した性淘汰理論で説明される。オス装飾に一型のみしかない集団から多型が生じる場合、種内の相加遺伝分散・遺伝共分散がダイナミックに変化する。しかし、古典的な性淘汰理論は分散・共分散が一定と仮定しているため、多型が生じる過程を記述できなかった。そこで本研究では、種内の相加遺伝分散・共分散の変化を記述したモデルから、オス装飾多型の生じる条件を調べた。モデルでは、オスメス両者が装飾を持ち、オスの装飾形質がメスの選好性から離れるほどメスの繁殖成功が低下し、その生息地における最適値からずれるほど捕食圧が増加するというトレードオフを仮定した。また、簡単のためにメス選好性にはコストがないと仮定した。

オリゴモルフィック・ダイナミクス解析の結果、初期集団のメスがある程度派手な装飾のオスを好む場合、性淘汰のランナウエイプロセスにより、より派手なオスの装飾形質と、それを好むメスの選好性とが共進化する。派手な装飾は捕食圧を上げるが、十分派手な装飾のもとでは捕食率が最大値に近づき、多少派手さを変えても捕食圧はあまり変化しない。一方、メスが好む装飾よりも十分に地味な装飾を持つオスは捕食圧を大きく下げることで有利になる。このような状況の下では、メスにはあまり好まれないが捕食リスクの低い隠蔽的なオスと、派手で捕食されやすいがメスに好まれる派手な装飾のオスの種内二型が生じることがわかった。この結果から、生物学的に、オス装飾多型が生じるのは、捕食者が派手なオスを探し出す認識能力が高く、メスの交尾相手を選ぶ範囲が広い場合であることが示唆された。進化前にメスの多数派が派手なオスを好む状況は、感覚便乗などの自然選択がメスに働くことで生じる可能性が考えられる。


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