| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-09 (Oral presentation)
毎年、多くの鳥類が、地理的に離れた繁殖地と越冬地を往復する渡りを行う。近年、各地で渡り鳥が減少しており、減少に寄与する要因の解明が急がれている。街灯等の夜間の地上照明は、渡り鳥の減少に寄与するとして近年特に注目されている要因であるが、夜間渡り中の鳥類への地上照明の影響の程度が、環境要因や各種の行動特性・形態とどのように関連しているのかついてはわかっていない。本研究では、2021~2023年8~11月の夜間に、北海道と青森県の地上照明がある3地点(処理区)と地上照明がない/消灯している3地点(対照区)において、渡り鳥の行動を観察し、地上照明に対する改変行動の指標(旋回、迂回・減速、墜落)の有無を記録した。その結果、これらの改変行動の頻度は対照区よりも処理区で高いことが示された。また、処理区における渡り鳥の改変行動の有無と環境要因の関係を調べたところ、渡り鳥がいずれかの改変行動を示す確率は、日没からの時間が経過するほど、および新月に近い日ほど高く、曇天の日にも高くなる傾向があった。さらに、観察個体数の多かった24種について、地上照明に対する改変行動の程度と各種の飛翔モード(直線飛行・波状飛行)、体重、翼先指標の関係を調べたところ、体重、翼先指標の影響は小さかったが、直線飛行よりも波状飛行をする鳥類の方が地上照明の影響を受けやすいことがわかった。これは頭部が地面方向に頻繁に向く波状飛行の方が、夜間飛行中の視界に地上照明が入りやすく、視覚定位が乱されやすいためだと考えられた。これらの結果から、渡り鳥の夜間飛行への地上照明の影響の程度は、複数の環境要因および渡り鳥の行動特性とも関連することが明らかになった。本研究で得られた知見は、渡り鳥への影響が大きい日や条件時に一時的に消灯するといった従来よりも柔軟な保全策の実施に役立つかもしれない。