| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-02  (Oral presentation)

島国の鳥類ゲノム:イヌワシとヤンバルクイナの多様性
Conservation genomics of the endangered avian species in Japan: genetic diversities of Golden eagle and Okinawa rail

*佐藤悠(京大・野生動物, エディンバラ大学), 大沼学(国立環境研究所), Rob OGDEN(Univ. of the Edinburgh, UK), Emily HUMBLE(Univ. of the Edinburgh, UK), 村山美穂(京大・野生動物)
*Yu SATO(Kyoto Univ. WRC, Univ. of the Edinburgh, UK), Manabu ONUMA(NIES), Rob OGDEN(Univ. of the Edinburgh, UK), Emily HUMBLE(Univ. of the Edinburgh, UK), Miho MURAYAMA(Kyoto Univ. WRC)

近年の全ゲノム解読技術の発展は目覚ましく、近親交配の詳細解析(Runs of Homozygosity:ROH解析)や歴史的な有効集団サイズ(Ne)の解析(PSMCなど)により、これまで以上の精度で野生動物の遺伝的多様性の解析が可能となってきた。
本研究では国内希少種に指定されているニホンイヌワシ(Aquila crysaetos japonica)とヤンバルクイナ(Gallirallus okinawae)の全ゲノム解析を実施した。両種とも絶滅危惧種であり、遺伝的多様性や近親交配の解明が保全上の重要な課題である。ニホンイヌワシでは国内の6個体と欧州の別亜種18個体で多様性を比較した。ヤンバルクイナでは採材時期が異なる2群(2005-2007年の9個体と2019-2022年の15個体)で多様性を比較した。ゲノムのヘテロ接合度やROHを解析して多様性と近親交配を評価し、またNeの推定も行った。
解析の結果、ニホンイヌワシの遺伝的多様性は欧州個体群よりも低かった。また近親交配が進行中であることも示唆された。Neの推定からは最終氷期に北米個体群と遺伝的に交流していたことが推察された。一方のヤンバルクイナでは、過去15年の間に多様性が有意に減少していた(p = 0.014)。しかし、両群ともROHに基づく近交係数(FROH)は高く(いずれも平均0.65)、この期間での近親交配の進行は見られなかった。2005年以前のサンプルを今後解析する必要があるが、もっと以前から近親交配が進行していたことが示唆され、推定Neは1000-2000年前に大きく減少していた。
以上の結果から、ニホンイヌワシの保全では現在の個体数減少を食い止めることが重要である。一方で、ヤンバルクイナではゲノム中にホモ接合領域が非常に多いことが示唆されたため、近交弱勢の評価や感染症対策が重要だと考えられる。


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