| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-04 (Oral presentation)
人間活動に関わる交通騒音は道路の周辺に生息する動物に悪影響を及ぼしている。鳥類では交通騒音による影響により個体数密度が減少することや採餌効率が低下することが知られている。鳥類は生息環境によって生活様式などの生態に違いがある一方で、交通騒音が鳥類に及ぼす影響について生息地の植生間で比較した研究は少ない。そこで本研究では、交通騒音が鳥類の出現個体数に及ぼす影響の違いを植生ごとに調べることを目的とし、鳥類の生息地で交通騒音を導入する操作実験を行った。
鳥類の繁殖期にあたる2023年5月から7月、および秋の渡り期にあたる10月から11月に、長野県上田市の菅平高原実験所の構内で調査を実施した。草原、アカマツ林、渓谷林の3つの植生でスピーカーを5台設置し、交通騒音の強弱による影響の違いを調べるために、各スピーカーから20 m、または、100 mの距離に調査地点を設けた。各調査地点で、交通騒音を流さずに鳥類の出現種と個体数を4日間調査した後、交通騒音を再生した状態で同様の調査を4日間行った。鳥類の識別は鳴き声または目視によって行った。
繁殖期の調査結果では、5月と6月にアカマツ林で、鳥類の個体数が騒音処理によって減少した。5月および6月の渓谷林や草原では個体数が減少しなかったことから、騒音処理による影響は植生間で違いが確認された。また、5月は20 mと100 mの両方の地点で、6月は100 mの地点で騒音処理による個体数の減少が見られた一方で、7月は20 m、100 mのどちらの地点でも個体数の減少は見られなかった。これは、繁殖期の後期には鳥類は縄張りを形成しているため、騒音処理による分布への影響が小さくなったと考えられる。一方で、秋の渡り期では、繁殖期と比較して騒音処理による個体数の顕著な減少は見られなかった。本研究の結果から、植生と季節によって交通騒音による鳥類の分布への影響が異なることが示された。