| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(口頭発表) H03-06  (Oral presentation)

魚類の毒性影響を評価する手法としての環境RNAの可能性
Potential of environmental RNA as a tool to assess toxic effects in fish

*日置恭史郎, 山岸隆博, 渡部春奈, 山本裕史(国立環境研究所)
*Kyoshiro HIKI, Takahiro YAMAGISHI, Haruna WATANABE, Hiroshi YAMAMOTO(NIES)

環境DNAまたは環境RNAは、特定の生物種の存在の定性または定量評価に活用されている。RNAはDNAに比べると生体の一時的な状態を反映しているため、環境RNAの測定は生物個体の解剖などを要せず、非侵襲的に生物の生理状態を推測できると期待されている。しかし環境RNAに関する研究は未だ少なく、どのような種類の遺伝子が検出できるか、あるいは実際に生物の生理状態を反映しているのかは不明である。そこで本研究は、環境RNAの測定による非侵襲的な魚類毒性の評価手法の確立に向け、化学物質による毒性影響の研究に使用されるミナミメダカ(Oryzias latipes)を用いて、(i)環境RNAとして検出可能な遺伝子の種類を調べ、(ii)化学物質の例としてピレンに96時間曝露した際のメダカ体内の発現変動を環境RNAによって検出できるか検討した。
メダカ組織のRNAと、水槽の水から回収した環境RNAのそれぞれから18,912個と1,110個の遺伝子が検出された。環境RNAから検出された1,110個の遺伝子全てが、組織RNAにおいても検出された。環境RNA中に検出された遺伝子は、カタラーゼなどのストレス応答のマーカーや異物代謝に関するarntなど、多様な遺伝子を含んでいた。
ピレン曝露の有無を比較した結果、組織RNAでは311個、環境RNAでは86個の発現変動遺伝子が見つかった。これらの遺伝子の発現パターンに基づき多変量解析を実施すると、試料は組織RNA、環境RNAという種類にかかわらずピレン曝露の有無によって分離された。
以上の結果は、環境RNAが化学物質曝露による魚類の遺伝子発現の変化を検出できる可能性を支持している。


日本生態学会