| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(口頭発表) H03-08 (Oral presentation)
人間活動由来の化学物質が生態系に及ぼすリスクを評価することは、生態系保全において重要である。化学物質が生物個体に及ぼす影響はOECDが定めた毒性試験法に則って調べられており、物質曝露下での生存率・繁殖率(産仔数等)などが測定されている。一方で個体群レベルの影響は、毒性試験で測られた生存率・繁殖率を基に、指数成長を仮定している個体群行列モデルを構築して個体群成長率を推定することで評価されてきた。しかし毒性試験の多くは生まれてから死ぬまでの全生活史過程のうちの一部分のみを対象としている。毒性試験のデータに依拠すると、脆弱な生活史過程を見落として個体群レベルの影響評価が不正確になる恐れがあった。そこで本研究は試験対象種の一つであるオオミジンコを用いて、誕生から死亡までの全生活史過程を調べることで個体群レベルの有害性を評価した。オオミジンコの毒性試験(繁殖試験)は3週齢までで打ち切られる。曝露がない条件下で3週齢以降の生存・繁殖も調べたところ、最長で10週間生存した。10週に渡る全生活史データを基に個体群行列モデルを作成して、感度・弾性度分析を実施し、何週齢目の生存・繁殖が個体群の存続において重要なのかを調べた。その結果1~2週齢の産仔数が下がる場合に個体群成長率が大きく低下することが示唆された。一方で、より野外条件に近づけることを目的に指数成長しない密度効果ありの個体群行列モデルを用いて感度・弾性度分析した場合は、1~2週齢だけでなく3~5週齢の産仔数の減少も大きく影響することが示唆された。よって密度効果を考慮すると、3週齢までしか測らない従来の試験法では重要な生活史過程を見落としている可能性がある。本研究のように、全生活史過程のデータを基に、密度効果の有無を含め様々なシナリオ下で脆弱な生活史過程を予測することは、従来の毒性試験の期間や個体群レベルのリスク評価手法を再考する上で重要だといえる。