| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-001  (Poster presentation)

冷温帯における小型哺乳類の樹上利用に影響を与える要因:巣箱を用いた評価【A】【O】
Factors affecting arboreal habitat use by small mammals in the cool temperate zone: the nest box experiments【A】【O】

*菅野遥登, 斎藤昌幸(山形大学)
*Haruto SUGENO, Masayuki SAITO(Yamagata Univ.)

 樹上性小型哺乳類は局所的な環境条件の影響を受けやすく、資源獲得のメリットとコストのトレードオフに基づき環境を選択する。樹上活動の種類によって要求される資源は異なるため、彼らの活動の種類は環境条件によって変化すると予想される。しかし、樹上活動の目的と環境条件を関連付けて研究した例は少ない。そこで、樹上を利用するニホンヤマネとヒメネズミの営巣および貯食が森林タイプによって異なるか検証し、樹上利用と環境条件の関係を評価した。
 山形県鶴岡市における広葉樹林、混交林、スギ人工林を対象に、2023年6月から11月まで228個の巣箱を設置し、ニホンヤマネの営巣とヒメネズミの営巣および貯食を観察した。一般化線形モデル(GLM)を用いて、各巣箱における両種の営巣および貯食の有無が森林タイプ、架設高、下層植生の状態、周辺の樹洞数で説明されるか解析した。
 その結果、ニホンヤマネの営巣(観察数:16)では、有意な変数は見られなかった(p ≥ 0.05)。一方、ヒメネズミの営巣(観察数:15)では、スギ人工林、架設高、下層植生、樹洞数で有意差が見られ(p < 0.05)、スギ人工林以外の森林タイプで、架設高が低く、下層植生と周辺の樹洞が少ない巣箱で観察されやすいことが示された。ヒメネズミの貯食(観察数:25)では、スギ人工林と巣箱架設高が有意な変数であり(p < 0.05)、スギ人工林で、架設高が低い巣箱で貯食が観察されやすかった。ニホンヤマネとヒメネズミの営巣における異なる森林タイプの選択は、巣材に利用する資源が種間で異なることに起因すると考えられる。また、ヒメネズミの営巣と貯食において利用する森林タイプの違いは、巣材と餌資源の供給が森林タイプによって異なることによると考えられる。以上の結果から、樹上性小型哺乳類が樹上の利用目的によって異なる環境条件を選択することを支持した。


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