| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-002 (Poster presentation)
捕食圧は強い選択圧としてはたらくため、多くの動物では捕食者に対する様々な形質が進化してきた。なかでも、刺状の形質は魚類や哺乳類などの多くの分類群で広く知られる防御形質である。また、ガムシなどの一部の動物においては、遊泳速度を増加させるという捕食防御以外の刺の機能も知られている。このため、刺の機能は多面的な可能性があるが、捕食防御以外の機能を調べた研究例はほとんどない。
コウチュウ目ゲンゴロウ科の種は後脚脛節に顕著な2対の刺(脛節刺, Metatibial spur)をもつが、この形質の機能については明らかになっていない。ゲンゴロウ科の刺は運動器官である脚に付属しており、体の内側を向いているという特徴をもつ。著者らの行動観察により、歩行や飛翔時の離陸の際に刺を地面と接触させている様子がみられたことから、刺は歩行や飛翔を補助する機能をもつ可能性がある。さらに、一部の種では刺が扁平になっていることから遊泳を補助する機能も考えられる。これらの理由により、ゲンゴロウ科の脚の刺は捕食防御以外の機能をもつ可能性がある。そこで本研究では、ゲンゴロウ科における脚の刺の機能を明らかにするために、歩行の補助、飛翔の補助、遊泳の補助、捕食防御の4つに着目して研究を行った。はじめに、7種のゲンゴロウ成虫を野外で採集した。その後、刺を実験的に除去した刺除去グループと、刺を除去していない刺非除去グループを用意し、グループ間でこれら4つの刺の機能を比較した。その結果、マルガタゲンゴロウでは刺の除去によって歩行速度が低下し、メススジゲンゴロウ及びクロゲンゴロウでは刺の除去によって飛翔成功率が低下することが示された。一方で遊泳の補助、捕食防御の機能はみられなかった。以上の結果より、ゲンゴロウ科における刺は歩行を補助し、飛翔の際の離陸を補助するという、主に陸上での運動を補助する機能をもつと考えられる。