| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-005 (Poster presentation)
都市では生物の急速な進化が起きていることが報告されている。都市に特徴的な人為的騒音は、生物の生理的機能から群集構造にまで幅広い影響を及ぼすことが示唆されており、騒音が生存や繁殖に影響する場合、都市における適応進化を促す可能性がある。一方で、こうした騒音の影響は、生態系の基盤である多くの昆虫類において十分に理解されていない。そこで、本研究ではオウトウショウジョウバエを用いて騒音の影響を多面的に検証するとともに、騒音に対する適応メカニズムを明らかにすることを目的とした。はじめに、関東の都市部と郊外部で採集されたオウトウショウジョウバエの雌をもとに作出された近交系統から、都市部と郊外部のそれぞれ3地点に由来する6系統を選定した。騒音暴露による適応度の変化を検出するために生存時間解析を実施し、さらに、騒音に対する応答の分子メカニズムを解明するためにトランスクリプトーム解析を実施した。生存時間解析では、各系統について騒音環境と非騒音環境で卵から飼育し、羽化後の成虫を雌雄10個体ずつバイアルに分け、同一環境で飼育を継続した。雌雄それぞれにおいて混合効果Coxモデルを用いて解析した結果、騒音暴露よって郊外系統でのみ生存率が有意に低下した。この結果は、都市の集団では、騒音の影響を受けづらくなるような適応が生じた可能性を示唆している。トランスクリプトーム解析では、上述の飼育条件で得た3日齢成虫から抽出したRNAサンプルを供試した。遺伝子発現量を推定したところ、騒音暴露により発現変動する遺伝子が存在し、都市系統と郊外系統で発現パターンが異なることが明らかとなった。これらの結果は、騒音環境では都市系統は郊外系統より適応的な表現型を示すこと、そして都市系統と郊外系統の異なる遺伝子発現パターンが本種の都市進出に寄与していること示唆している。