| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-008 (Poster presentation)
近年、急速に進行した都市化は生態系に大きな影響をもたらしている。その原因としては都市開発による生息地の分断や減少だけではなく、騒音や光害、大気汚染のように環境改変を伴わないものも挙げられる。本研究では、騒音が生物に与える影響について、特に鳴き声を使ってコミュニケーションを行う生物への影響を検討している。本研究では、対象種をコオロギ上科ヒバリモドキ科の一種であるキンヒバリとし、本種の生息に必要とされる植生や水辺環境等の静的な生息環境を明らかにしたうえで、生息地選択の際に好まれる音環境を明らかにすることを目的とした。東京都町田市の都市化された地域に残存する田園地帯において、キンヒバリの生息状況調査及び、調査地における植生・水辺環境調査、そしてサウンドレベルの大きさと調査地で確認された音の種類についての調査を行った。これらの調査結果を説明変数、キンヒバリの有無を応答変数として一般化線形モデルを作成し、AIC(赤池情報量基準)をもとにモデル選択を行った。その結果、静的な生息環境要因では、キンヒバリの生息状況は、イネ科の高茎草本や中茎草本、道路からのユークリッド距離が影響することが明らかになった。音環境に関する要因では、サウンドレベルの大きさがキンヒバリの生息に負の影響を及ぼすことが明らかとなり、音の質では、ニイニイゼミがキンヒバリの生息に負の影響を与えていることが明らかとなった。ニイニイゼミは鳴き声が大きく、キンヒバリの鳴き声の周波数と重なることから、音の大きさと質の両面からキンヒバリの鳴き声をマスクしている可能性が示唆された。ニイニイゼミはヒートアイランド現象や光害の影響を受けて、分布や活動時間に変化が起きていると考えられる。都市化は、生物の分布や行動を変化させたことで生息地の音環境を変えており、間接的に鳴き声を使ってコミュニケーションをとる生物に影響を与えていることが示唆された。