| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-009 (Poster presentation)
モグラ類の多くは,自身の土壌攪乱行動により環境を改変する生態系エンジニアで,土壌生態系の高次捕食者としても知られる.そのため,生態系においてモグラ類が及ぼす影響は大きい.平坦な耕作地や草地では,モグラ塚などの地表に見える活動痕跡の定量や捕獲調査により,モグラ類の好適な生息環境がよく調べられてきた.しかし,森林や山地では,樹木リターの蓄積や複雑な地形の影響で,モグラ類の生息密度の定量が容易ではないためか,ほとんど調査が行われていない.
本研究では,山形県の山地林に生息するアズマモグラMogera imaizumii を対象に,トンネルの入念な探索に基づく生息密度の定量を試みた.発表者による1年間の予備調査では,アズマモグラの活動痕跡がスギ人工林で少ない傾向が見られた.そこで,森林構造が単純なスギ人工林ではアズマモグラの餌資源が乏しく,生息密度が低いのかを検証するため,生息密度をコナラなどの落葉広葉樹が優占する自然林と比較し,影響を及ぼす土壌環境要因を分析した.
2023年4月から10月まで,6か所の登山道を利用したルートセンサスを行った結果,森林植生タイプに関わらず,アズマモグラの生息が広く認められたが,生息密度の指標としたトンネル密度(ルート1 kmあたりのアクティブなトンネル数)は場所によって大きく異なり,スギ人工林で低く,ナラ林で高かった.ミミズ類のバイオマスが大きい場所ほどアズマモグラの生息密度が高く,餌資源としてのミミズ類の重要性を反映していた.ミミズ類のバイオマスは土壌硬度および土壌含水率と負の関係にあったが,スギ人工林には土壌含水率が高い場所が多く見られた.スギは湿潤な環境を好むことから,スギ人工林においてアズマモグラの生息密度が低かったのは,その立地による可能性が考えられた.