| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-010 (Poster presentation)
気候変動に伴い,極端気象の頻度や強度が上昇している.気候変動下での生物多様性の将来予測を行うためには極端気象に対する生物の応答への理解が不可欠であるが,極端気象がいつ発生するかは人間にとっても予測不可能であり,自然環境下の野生動物の気象応答はほとんどわかっていない.
本研究では,この目的のための,自動撮影カメラデータに基づく新たな連続時間モデルを開発し,シミュレーションによるモデル評価の後,千葉県房総半島南部に生息する野生動物を対象にした解析を行った.特に,2019年の令和元年房総半島台風,令和元年東日本台風のふたつの極端気象に注目した.動物の撮影時刻データを多地点のイベント時系列データとみなし,非一様ポアソン過程により各地点の強度関数をモデル化した.自動撮影カメラによる,個体識別を必要としない密度推定手法RESTモデルに基づいて強度関数を活動個体密度 (地上で活動状態にある個体の密度) の関数とし,サイト共変量・周期関数・時間変化するサイト共変量と結んだ.
房総半島データへの適用の結果,9種のうち8種は台風接近時に活動を低下させ,対してハクビシンは活動を増加させていたことがわかった.多くの種は台風接近時に行動を制限して大雨を回避し,半樹上性のハクビシンは,樹上で強風に曝されるのを避け地上での活動割合を増加させた可能性がある.また,調査期間の9–10月にかけて,シカの活動個体密度は増加,タヌキとアナグマは減少傾向にあった.理由として,シカは繁殖期に向けた活発化,タヌキ・アナグマは冬籠りに向けた活動低下が考えられる.
本研究では,自動撮影カメラの観測プロセスを時間点過程により記述したモデルを発展させ,特に気象条件に対する野生動物の活動個体密度の応答を定量化した.今後は,個体群動態と照らし合わせることで,野生動物の行動変化と個体群動態の間のメカニズムに迫り,気候変動下の将来予測に役立てたい.