| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-014 (Poster presentation)
生物の個体群動態は気候変化に伴って変化すると考えられる。中でも感染症媒介生物の挙動を予測することは非常に重要である。Watanabe et al.(2017) やFukui et al.(2022) は、日本に生息する代表的な温帯性蚊であるアカイエカとヒトスジシマカの東京における個体群動態を推定する気候駆動型のモデル(the Physiology-based Climate-driven Mosquito Population model: PCMP model)を開発・改良した。PCMPモデルには蚊の休眠や水生段階における生理学的なプロセスが考慮され、熱収支水収支計算による環境収容力や個体流出の効果などが組み込まれている。
蚊の個体群動態予測では一般的に気温上昇の影響に着目されることが多いが、PCMPモデルによるシミュレーションからは、温帯性蚊の個体群動態には降水パターンが重要な影響を与えていることが示されている。また、降水の将来予測データを用いたシミュレーションにおいては、各々のデータの系統的誤差も個体群動態に影響を与えている可能性があるため、現実的な降水パターンにしたがった適切な将来予測をすることはできていない。
そこで本研究では、複数の降水データを利用することでどのような降水傾向がどのような影響を個体群動態の推定にもたらしているのかを分析し、蚊の個体群動態にとって重要となる降水パターンの要素を明らかにした。そのうえで、個体群動態の適切な将来予測に向けて降水データを活用する際に注意すべき点を検討した。本研究から、温帯性蚊の個体群動態は各種のライフサイクル応じて水生段階個体に対する降水の影響を強く受けているということ、そして降水データそれぞれに存在するバイアスにも影響を受けることから降水データの適切な取り扱いを検討する必要があるということが示唆された。