| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-016 (Poster presentation)
飛翔能力の退化は様々な昆虫分類群でみられ、昆虫における収斂進化の代表例である。特に甲虫目では移動能力の低下をもたらし、生態の多様化や種多様化を促進させた。そのため、飛翔能力の退化をもたらした遺伝基盤の解明は、甲虫目の多様化の鍵となった遺伝基盤の解明につながる。飛翔能力の退化は飛翔筋の退化後に翅が退化するため、飛翔能力は翅の退化前の飛翔筋の退化時点で失われる。そのため、飛翔能力退化の遺伝基盤を調べるには飛翔筋が退化途中にある種を調べる必要があるが、飛翔筋の有無は外部形態で判別できないために飛翔筋二型種はあまり知られておらず、研究されてこなかった。
本研究では、オオヒラタシデムシにおける飛翔筋二型の遺伝基盤の解明を目的とした。まず、先行研究で野外集団における飛翔筋の有無の比率が偏っていた、北海道、宮城県、山形県の3地点で飛翔筋の有無を調べた。次に、北海道と山形県の集団を用いて、成虫に産卵させて得た幼虫を餌量と密度を変えて飼育し、本種における飛翔筋の有無が遺伝的か表現型可塑性を示すかを調べた。
結果、野外で採集した成虫については、北海道集団は143個体中140個体が飛翔筋をもっていたが、宮城県集団は29個体中2個体、山形県集団は149個体中21個体しか飛翔筋をもっていなかった。餌量と密度を変えた飼育実験では、北海道集団を19個体飼育して羽化できた個体は1個体のみであり、その個体は飛翔筋をもっていなかったが、生育不良と思われた。また、北海道集団で餌や密度を変えずに行った予備実験では、飼育した幼虫5個体中羽化した3個体全てが羽化後に飛翔筋をもっていた。山形県集団の飛翔筋をもっていない親個体から得た幼虫は50個体飼育したが、羽化した19個体全てが飛翔筋をもっていなかった。
本研究より、本種の飛翔筋の有無に環境が与える影響は小さく、遺伝的に決まっている割合が高いと考えられる。