| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-018  (Poster presentation)

野生アマゴ個体群における成熟開始年齢の遺伝基盤の探索【A】【O】
The genetic basis of age at maturity in a wild red-spotted masu salmon population, Oncorhynchus masou ishikawae【A】【O】

*野田祥平(京都大学・生態研), 武島弘彦(福井県立大学), 上田るい(京都大学・生態研), 佐藤拓哉(京都大学・生態研)
*Shohei NODA(CER, Kyoto Univ.), Hirohiko TAKESHIMA(Fukui Pref. Univ.), Rui UEDA(CER, Kyoto Univ.), Takuya SATO(CER, Kyoto Univ.)

個体群内の多様な生活史は、個体が環境変化に適応する源泉となる。こうした生活史の個体間変異の維持に関わる環境的・遺伝的な要因を解明することは、生態学や進化生物学の重要な課題のひとつと言える。季節的な資源流入を通した生態系のつながりは、生態系の基本構造であり、消費者個体群の生活史に強く影響する。しかし、季節的な資源流入が、生活史の個体間変異とその背景にある遺伝子の頻度をどのように規定するのかは明らかではない。本研究では、森から川への季節的な資源流入が、アマゴの生活史の個体間変異にもたらす影響を長期的な野外調査で評価するとともに、全ゲノム解析によりその背景にある遺伝基盤を探索した。
自然河川において、2016年の春から2018年の夏にかけて、6-8月(春-夏)と8-10月(夏-秋)にそれぞれ陸生昆虫を供給する2つの実験区と無供給の対照区を設置し、個体の成長履歴、繁殖開始年齢、および繁殖回数の割合を調べた。その結果、春-夏供給区では、高成長・早熟型の個体の割合が高く、他の実験区では低成長・晩熟型の割合が高かった。また、春-夏供給区の実験後は、高成長・早熟型が速やかに減少し、他の区と同様に低成長・晩熟型が優先する個体群になった。つまり、春-夏の資源流入が、アマゴ個体群内に多様な生活史を維持する鍵になっていることが明らかになった。
次に、繁殖開始年齢に関して、低カバレッジ全ゲノムシーケンスに基づく解析を実施した。検出された多型サイトについて、早熟(0歳成熟 雄=18、1歳成熟 雌=14)と≧2歳成熟(雄=23; 雌=21)の間で、FST値と対立遺伝子頻度の差(dAF)を計算した。その結果、雌雄で共通するゲノム領域は見つからなかったが、早熟型vs.晩熟型でやや大きく異なる領域が、オスでは5つ、メスでは6つの独立した連鎖群で見出された(FST>0.02,dAF>0.61)。この結果に基づき、季節的な資源流入と、アマゴの成熟開始年齢に関する遺伝的変異の時間的変化の関係について議論する。


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