| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-021 (Poster presentation)
古典的なメタ個体群理論では、生息地パッチは静的なものとされ、移動分散と局所個体群の確率論的浮動によってメタ個体群動態を説明するが、実際には、生息地パッチ内部の質が時間変化することで、局所個体群動態が駆動され、メタ個体群全体に波及すると考えられる。パッチ内部をダイナミックに変化させるものとして、撹乱の効果が近年注目されているが、パッチ単位の撹乱の改変が生息地ネットワーク構造やメタ個体群へ波及する効果についてはよくわかっていない。しかし、希少種保全や外来種対策のための生息地管理が、周辺や地域全体にどの程度波及するかを理解することは、管理指針の策定や評価において重要である。本研究では、農地景観に生息する草原性チョウ類の1種であるミヤマシジミの生息地パッチにおいて、撹乱レジームを実験的に改変し、メタ個体群動態への応答を調べた。
生息地パッチは農地の畔や土手といった草刈りが卓越した草地に点在するため、実験区に設定した生息地パッチでは草刈りの頻度・タイミング・強度を操作し、10世代分継続した。その結果、従来通りの慣行区では個体数の顕著な変化はなかったのに対し、実験区では局所個体群サイズが数倍に増加した。実験前後で、メタ個体群を分割するモジュールの数は3つで変わらなかったが、モジュール性は減少から増加に転じたことがわかった。さらに、生息地ネットワーク上のパッチの重要度をモジュール内とモジュール間に分け、各々の変化を慣行区と実験区で比較したところ、モジュール内の重要度が実験区で増加していたが、モジュール間の重要度は慣行区と変わらなかった。このことから、生息地パッチでの撹乱改変はメタ個体群のモジュール内部の移動分散を変化させ、モジュール性を強めたと示唆された。したがって、局所個体群サイズを高める撹乱はメタ個体群の持続性を高めることに貢献することがわかった。