| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-022  (Poster presentation)

汽水性カイアシ類Sinocalanus tenellusの生存に及ぼす農薬と塩分の影響【A】【O】
Effects of pesticide and salinity on survival of the brackish water copepod, Sinocalanus tenellus【A】【O】

*鈴木碩通(東北大院・生命), 宮本康(里山里海湖研究所), 高橋真司(東北大院・工), 占部城太郎(東北大院・生命)
*Hiromichi SUZUKI(Tohoku Univ. Life Science), Yasushi MIYAMOTO(Satoyama-Satoumi Res. Inst.), Shinji TAKAHASHI(Tohoku Univ. Engineering), Jotaro URABE(Tohoku Univ. Life Science)

ネオニコチノイド系農薬は世界中で広く使用されているが、昆虫などの標的生物以外にも影響を与えると指摘されている。これらの農薬は、水田等に散布されたのちに流出することで、河川や湖沼の水生生物に影響を及ぼすことが示唆されている。河川に流出した農薬は、河口域へと流下し、干潟などの汽水域の生物にも影響を与える可能性がある。しかし、これまでに行われてきた研究の多くは淡水性の生物を対象としており、汽水性の生物に対する農薬の影響を実際に検証した研究は少ない。
 動物プランクトンは汽水域でも一次生産者を消費し、魚類の餌となることでその生態系を支えている。従って、農薬の流出は動物プランクトン種の減少を通じて沿岸生態系全体に影響を及ぼす可能性がある。しかし、これは農薬が動物プランクトン減少の主要因となるシナリオであり、実際に汽水性動物プランクトンに対して農薬が悪影響を及ぼしているのかはわかっていない。汽水域は塩分が経時的に変化しており、動物プランクトンの生存も塩分に強く影響される。そのため、農薬の影響を正確に評価するためには、塩分と農薬の共役的な効果の検証が不可欠である。
本研究では汽水域の代表的動物プランクトン、キスイヒゲナガケンミジンコ(Sinocalanus tenellus)を対象に、農薬の影響を様々な塩分条件下で調べた。実験は、最も一般的なネオニコチノイドであるイミダクロプリドを使用し、急性毒性試験及び群集実験によって行った。急性毒性試験では、3地点(島根県・福井県・宮城県)から採集された成体を用いて、農薬と塩分の個体の生存への影響を検証した。群集実験では、成長段階が異なる個体で構成されるS. tenellus個体群に対して農薬を暴露し、個体群レベルでの応答評価と成長段階ごとの影響を調べた。本講演では、これらの結果について報告すると共に、汽水生態系に対する農薬と塩分の影響を考察する。


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