| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-024 (Poster presentation)
群集構造の決定プロセス解明は群集生態学の命題である。近年、地域群集構造と、マクロな地理スケールの分布パターンとの関連性が提唱されており、空間スケールを跨いだ解析によって、群集構造の決定プロセスの更なる理解が進むと考えられる。本分野の研究にあたって、ヨコエビ類(甲殻綱端脚目)は、分散能力が低く、環境の変化に敏感なことから、生物・非生物的影響を強く反映した分布様態をとるとされ、好適な分類群だと考えられる。
これまでの研究で、北海道東部厚岸湾のヨコエビ類群集構造について、グローバルな地理分布傾向(=生物地理)と、厚岸湾内の局所的な分布傾向との関連性が分かってきた。一方で、淡水・汽水環境における様態は不明である。こうした背景から、本研究では調査環境を隣接する汽水域・河川に拡大し、群集構造と環境・生物地理の関連性を調査した。
調査域は、厚岸町における、別寒辺牛川(淡水)~厚岸湖 (汽水) ~厚岸湾(海水)の連続水系とした。河川・汽水域の調査は2020年8月~9月に、海洋環境の調査は2020年4月~2022年3月に行った。ヨコエビ類の採集には小型底曳網および手網を用いた。環境要因は水深・水温・塩分・底質を観測・採集し、群集構造との関連性を推定した。ヨコエビ類の種ごとの生物地理属性は、OBIS・GBIFの各種データベースおよび各種文献を参照して抽出した世界的な出現地点を、世界の海洋生物地理区分 (Spalding et al., 2007) と照合することで求め、厚岸町の水系における出現傾向との関連性を検討した。
群集構造は河川・汽水域・海洋環境の間で異なった。出現種の生物地理属性は、河川、汽水域および海洋の浅域で、太平洋冷温帯域の分布が主な要素となった。一方で海洋環境のより深い水深帯では、北極域と太平洋冷温帯域に跨る分布が主な要素となった。
本研究結果は河川~海洋スケールの群集構造の決定プロセスに、環境と生物地理が影響することを示唆するものである。